さて、今回は老化と再生医療と若返りについての四回目です。このコラムではこれまで以下に示す四つのことを示してきました。
(1)人の体は60兆個の細胞で出来ている
(2)ゆっくりとした細胞分裂が続いている事で体が維持されている
(3)人の体に寿命があるように、細胞にも寿命がある
(4)不死化した細胞は癌
今回は再生医療について示します。
人の体はうまく出来ていて、赤ちゃんとして生まれて、中学生、高校生くらいに男性は男性らしく、女性は女性らしい体つきになり、細胞の寿命がつきることや、様々な老化の蓄積として、最終的には死に至ります。
多分、この寿命が200歳や300歳になることはないでしょう。長くとも100歳くらいという今の状況は変わらない事だと思います。だからこそ、その短い一生をいかに有意義に過ごすかに、私も含めて多くの人が挑戦し続けているのでしょうね。
さて、みなさんは「再生医療」という言葉を聞いた事がございますか?再生医療というのは簡単に言うと、失われてしまったり、悪くなってしまったりした部分を細胞を加工して作った新しい部品と交換してしまおうという考えです。
みなさんはトカゲの尻尾が切れてしまってもまた生えてくると聞いた事があるかと思います。あれは、切れてしまった部分の細胞がもとの尻尾を細胞分裂によって「再生」しているのですね。でも、実は爬虫類の再生能力は完全ではなくて、再生されたトカゲの尻尾の中の骨は不完全だと言われています。
多分何回切れても生えてくるのだと思いますが、見た目ほど再生能力は完全ではないようなのです。この再生能力の高さは両生類や魚類の方が高く、両生類であるイモリの腕は切断してもきちんと再生されます。どうも高等生物(と言いたくないのですが)ほど、再生能力は衰えていくようですね。
では、人には再生能力が無いのかというとそうでもありません。ちょっとした切り傷や擦り傷などはしばらくすると治りますし、軽度の火傷であれば、皮膚の下の方から新しい皮膚が作られてきて、やがて綺麗に置き換わります。
他にも肝臓は非常に再生能力が高い臓器として知られていて、半分以上を切り取っても数ヶ月後にはもとの大きさにまで再生されます。
まだ、そうした再生のメカニズムは完全には分かっていませんが、多くの研究者によって必要なタンパク質や遺伝子などの情報が蓄積されてきて、今では特にES細胞やiPS細胞を目的の細胞に分化させる事も可能になってきました。
ここではES細胞や、iPS細胞について述べてしまうと長~~~くなるので、少しにします。
このコラムでは最初に私たちの体はたった一つの受精卵からスタートしているとお伝えしているはずです。受精卵は何度も細胞分裂を繰り返す事で、皮膚、脳、腸、神経、血液などなど様々な種類の細胞となり、体を作り上げてきました。
つまり、最初の受精卵は複雑な仕組みによって体を構成しているすべての種類の細胞に変化(分化)することが出来る(出来た)訳です。その仕組みがかなり分かってきたのですね。
ES細胞やiPS細胞というのはこの受精卵に近い状態の細胞で、ES細胞は受精卵から赤ちゃんに育つ途中の細胞から作られ、一方iPS細胞は既に大人になった体のどこかの細胞から作られるという違いがあります。
iPS細胞は本人の細胞をもとにして作るので、上に述べた様々な複雑な仕組みをその細胞に応用すれば、神経にも、皮膚にも、あるいは精子にすら細胞を変化(分化)させられるわけです。そうして作られた皮膚や臓器があれば、火傷や癌などで失われた部分を置き換える「再生医療」が確立するはずなのです。
もちろんこうした行為は男女の営みによる自然な流れとは大きく異なっていますので、神の冒涜だと反対される方も多くいらっしゃるかもしれません。短い一生を考える上ではそこまでするか?と思われる方もいるかもしれませんね。
人の価値観は様々ですが、ちょっと蚊に刺されただけでかゆくて薬を使ってしまうのが人情です。火傷が自然に治るまではずっとヒリヒリして辛いものです。同じように例えば、インスリンの分泌(ぶんぴつ)が極端に低下してしまった糖尿病患者さんに再生医療によって作り出した正常な膵臓を提供できるとしたら、患者さんのQOL (Quality of Life:生活の質)は見事に改善されるでしょう。あるいは、事故で失ってしまった腕や脚を元通りに出来たとしたらどうでしょうか。
そうしたことを目指すのが再生医療の発展に挑む生物学者と医師の共通の考えなのです。
今回の内容をまとめます。
・受精卵から体が作られてくる仕組みが分かってきた
・ES細胞やiPS細胞という受精卵に近い性質の細胞をつくることが出来るようになってきた
・それにその仕組みを応用すれば、様々な細胞を作り出す事ができる
・困っている患者さんを救うための再生医療は生物学者と医師のコラボレーション
本日の講義は以上です。最後に、出欠をとります。以下のバナーをクリックしたことで「出席」と認めます。
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