Monday, January 28, 2013

What is Life? 老化と再生医療と若返りについて(その1)


What is Life? 老化と再生医療と若返りについて」(その1)

さて、今回から数回に分けてみなさんが日々気にしている(かもしれない)「老化と再生医療と若返り」について書きます。

ここでは、私が大学で生物学の授業で習ってきたことや、これまでの研究活動を通して学んできたことなどを交えて、出来るだけ難しい言葉を使わずに、どうすれば幸せに生きて行くことが出来るのかを伝えるのがテーマです。

第一回目の今回は、そうしたことを理解するための導入になります。生物学的に老化や若返りなどを理解するには、最低限知っておかなければならない基礎知識があるのです。

さて、まずは私たちの体が何から作られているかを考えてみましょう。皆さんもご存知のように、私たちの体は細胞という小さなものの集合体です。その数は何と約60兆個と言われています。世界人口の1万倍の数の細胞から私たちの体は成り立っているのですね。

それらのたくさんの細胞ははじめはたった一個の受精卵からスタートしました。あなたのお父さんとお母さんの愛の結晶として誕生した受精卵はその後、何度も何度も細胞分裂を繰り返して赤ちゃんにまで成長してお母さんの体の中から外の世界に出てきたのです。

こうしてfacebookで私の記事をご覧の皆さんは例外無く、この流れでこの世に誕生しているはずです。そうして幼少期、少年少女期、思春期、青年期を経て、現在に至っているはずです。

ところが人に限らず殆どの生物には寿命というものがあります。永遠に生き続けることが出来る生物は残念ながらまだ見つかっていません。何千年も生き続けていると言われている大木や盆栽などはごく稀なケースで、人間の場合は長くても100年くらいだと言われています。

さて、年を取って困ることと言えば何でしょうか、阪神タイガースの金本選手のように満足したバッティングが出来なくなることでしょうか?あるいは、北島選手のように平泳ぎで世界記録を出せなくなってくることでしょうか?それとも少し駅まで走っただけで夜中に足がつることでしょうか(苦笑)?

もちろんそうしたことも含まれるのですが、やはり体のあちこちに衰えが出てきたり、外面的な変化を伴う老化ではないでしょう。

では、老化とは一体なんなのでしょうか?

先ほども示しましたように、私たちの体は60兆個の細胞から出来ていて、たくさんの細胞分裂の結果として、今の体になっています。ではもし、中学生時代のような成長がずっと続いていたとしたらどうでしょうか。今頃みんな10 mの巨人になっているかもしれません。ところがそうはなっていませんよね。

背の高さや、足の大きさ、目の形、髪の毛の色など、人によって様々な違いはありますが、大体高校生頃に一定のサイズにまで達したら、そこでそうした成長は一旦止まります。盛んな細胞分裂による成長は一段落するのです。

では体の中で細胞分裂は全部止まってしまったのかというと、そうでもないのです。胃や腸の粘膜や皮膚や髪の毛、そして血液細胞(赤血球や白血球)など大人になっても盛んに細胞分裂を続けている場所ですし、その他の部分もゆっくりではありますが、細胞分裂は続いています。

だから、ある一定期間が経つと、体の細胞は全部入れ替わっている計算になるのです。それがどのくらいの期間になるのかというのは色々な説はありますが、ドラえもんによるとおよそ2ヶ月だそうです。

人の体はそうした形で、いつも古くなった細胞が死に(垢となって剥がれていく)、新しい細胞が増えて、毎日毎日活動できるように保たれているのです。そうした仕組みのことを専門用語で「ホメオスタシス:恒常性の維持」と言います。

ちょっと難しくなってきたので、今日はこの辺までにします。今日の話をまとめると、皆さんは細胞分裂を繰り返して60兆個の細胞からなる体に成長し、その後もゆっくりと細胞分裂は続いているので、体が維持できているということですね。

さて、次回は老化と不死化について述べます。



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Saturday, January 19, 2013

What is Life? iPS細胞について(その4)

最近テレビは殆ど見ていないので、どの程度山中先生について報道されているのか、正直分かりません。毎週見ているのはNHKでやっている「イサン」とNHK教育の「みんなの手話」くらいですね。録画ですが、。

 さて、始めましょう。今回はiPS細胞についての4回目です。前回までに「再生」「分化」「脱分化」「初期化」「幹細胞」「ES細胞」「ヒトゲノム(遺伝子)」そして、「iPS細胞」というキーワードを用いて説明してきました。

 前回の最後にやっと「iPS細胞」が登場しましたね。「iPS細胞」は「ES細胞」と同様に、様々な細胞に分化する能力を持っているもので、「ES細胞」が抱える(1)倫理的問題と(2)免疫の問題の両方をクリアーするものだと簡単に説明致しました。 

今回はもう一度「iPS細胞」について説明し、この技術の将来における可能性などについてご紹介したいと考えています。 

前回のおさらいです。山中先生は「ES細胞」が抱える(1)倫理的問題(2)免疫の問題の両方を、「初期化因子」を見つけ出して解決しようとなさったのです。 

そして、60億文字からなる遺伝子の百科事典の中のあちらこちらに存在する3万行の文章の中から、「ES細胞」にだけ見られるものを24個見つけてくることが出来たのです。

そしてその後の研究で細胞を「初期化」するには24個のうちのたった4つの遺伝子があれば大丈夫だということを突き止めて、世界で初めて生物学分野の最も有名な科学雑誌の1つにご発表されたのです。

 もう少し詳しく説明しましょう。山中先生は皮膚細胞を使って、この4つの遺伝子を皮膚細胞に入れて、その細胞の中で4つの遺伝子を働かせてみました。これまでは皮膚細胞らしい形をしていたものが、形が変わり、そして、特別な条件で培養すると、どんな細胞へも「分化」出来る細胞、つまり「iPS細胞」となったのです。 

考えてみてください。もしあなたの皮膚細胞(それを取ってくるのはもしかしたら少し痛いかもしれませんが、我慢してください)をとってきて、四つの遺伝子を組み込み、何にでも「分化」させることが出来るiPS細胞を作ることが出来るとしたら、、、。

 これならば、将来赤ちゃんとして誕生してくる可能性のある「胚」を使う訳ではないので(1)倫理的な問題は殆どありません。 

さらに、自分自身の細胞なので「免疫の型」は同じですから、拒絶反応は起こりませんし、困ったときに目的の臓器も理論上は作ることが出来るはずです。

 ですから、もしあなたがお酒の飲み過ぎで肝臓が悪くなってしまったら、以前作っておいた自分の「iPS細胞」を使って肝臓の細胞を作ればいいですし、やけどをしてしまったら、皮膚の細胞を作ればいいのです。もはや大金を使ってドナーを探す必要はなくなるのかもしれません。 

病気で苦しんでいる人、事故などで失ってしまった体の一部を取り戻したい方、あるいは若さを取り戻したいと考えている人、そうした人に夢を与える可能性をもった技術なのです。 

しかし、諸手を上げて大歓迎という段階には残念ながらまだ至っておりません。安全面や倫理面の問題も残されています。当初用いる遺伝子4つのうち1つが癌細胞で働くものであったため、作成したiPS細胞が癌化してしまうという問題もありました。現在は3つで同じことが出来ることが分かりましたし、様々な改良によって、癌化を防ぐことが出来るようになってきたようです。

 一方で、iPS細胞に関する新たな「倫理的問題」も発生してきました。

 例えば、この細胞を特殊な環境に置いてやると、あらゆる細胞へと「分化させる」ことが出来ます。極端な例では、iPS細胞から精子や卵子も作り出せるはずなのです。実際に卵子はまだ難しい面があるようですが、精子は作ることが出来たそうです。 

雌のマウスを用いた実験では、それらを使って受精させると、自分のコピーが出来ることがあきらかになったようです。ま、もちろん若干難しい点もありますが、原理的には可能だということです。

 iPS細胞はそうした移植医療、再生医療の分野だけではなく、原因や治療法が無い、所謂「難病」の研究にも活用することが可能です。かつて「筋萎縮性側索硬化症:ALS」という難病の研究に携わっていた自分としては、iPS細胞を使うべきはまずはこちらではないかと考えています。

 「筋萎縮性側索硬化症」は手足の先から運動神経が徐々に死んでいく病気で、手足が動かなくなり、さらにその病気が進行すると寝たきりとなってしまうものです。感覚神経には影響がないので、分かりやすく言うと、蚊に刺されてかゆくてもかけない、そんなことが起こる訳です。

 もちろんこの例は実際にこの病気で苦しまれていらっしゃる方からは怒られてしまうとは思うのですが、一般の方々にこの病気について理解していただきたいと考えてのことですので、どうかお許しください。

 例えばこの「筋萎縮性側索硬化症」のように、遺伝子の異常によって起こる病気の原因を調べるために、患者さんの組織を採取するというのはかなり困難です。ですから、患者さんの細胞をほんの少し頂いて、iPS細胞を作って、そこから研究に必要な細胞を「分化」させて、実験室においてその原因を突き止めるための研究に生かせばいいのです。

 そうしたこれまででは出来なかったあらゆる研究への可能性がiPS細胞にはあります。この技術が確立するには様々な幸運と環境の整備がたまたま重なったことも影響したことだとは思います。でも、それを本当に世の中に役立つものを作りたいと真剣に考え、現在も研究に邁進されていらっしゃる山中先生を大変尊敬申し上げております。 

こうして離れた場所から、山中先生への尊敬の念を表するために書いてきた「iPS細胞について」の連続コラムは今回が最終回です。用語の解説や歴史的背景、あるいは例え話など、そうしたものが必要であるために、もしかしたら「長過ぎだよ」とお叱りを受けるかもしれませんが、どうかご容赦ください。

 山中先生、本当におめでとうございます。100年に1度、いや500年に1度の大発見を成し遂げた先生の偉業は将来ずっと私たちの励みにもなりますし、現在困っている方々を救うための礎となることは間違いありません。 

本当におめでとうございます。そしてありがとうございます。バイオの研究に携わる人間として、その末席からお祝い申し上げます。みなさんお読みくださいましてありがとうございました。何かご質問がございましたら、お気軽にご相談ください。

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Thursday, January 17, 2013

What is Life? iPS細胞について(その3)


さて、それでは始めましょう。今回はiPS細胞についての3回目です。前回までに様々な生物学の基本について説明して参りました。

これまでの流れを簡単に振り返ってみましょう。まず、私たちはたった1個の受精卵から始まり、繰り返し細胞分裂を行うことで、細胞が「分化」し、およそ60兆個からなる体に成長しているのです。

しかし、怪我をするとその傷の部分に「再生」が起こり、細胞の「脱分化」や「幹細胞」が集まってくることで傷はほぼ完全に「修復」されるのです。

この「再生」や「脱分化」に関する謎を明らかにするきっかけとなった研究は、この度、山中先生とともにノーベル医学生理学賞を受賞されたイギリスのケンブリッジ大学教授ガードン博士が行ったカエルを用いた「初期化」に関する一連の研究です。

そうした様々な研究がなされている際に見つかってきたものが、この後説明する、動物の受精卵から細胞分裂を何度か繰り返した状態の「胚(はい)」から作り出された「ES細胞(胚性幹細胞:embryonic stem cell)」なのです。

これまで説明してきましたように、受精卵は将来体の全ての細胞の元になります。つまりどんな細胞にも「分化」する能力があるのです。受精後に何回か細胞分裂している間は全ての細胞が同じ性質、つまりどんな細胞にも「分化」できる能力を持っているのですが、ある時期を過ぎてしまう(要するに成長してくる)と、それぞれの細胞は「分化」を始めてしまうので、そうした性質は段々と薄れてしまうのです。

逆に考えてみましょう。受精卵から少し分裂したくらいの時期で細胞をバラバラにしてシャーレで培養してみると、どうでしょうか。それらの細胞はまだどんな細胞へも「分化」出来る状態なのですから、それらの細胞を神経細胞にしたいならそのための培養条件にし、皮膚細胞にしたいなら皮膚細胞にあった培養条件にするだけで、自在に細胞を「分化」させられるのです。

こうした細胞のことがまさに「ES細胞」なのです。この技術が生まれたことで、世界中の研究者や医師は本当に熱狂しました。どんな細胞にも「分化」させることが出来るのだったら、事故で失われてしまった足や、病気で機能を失ってしまった臓器でさえもこの「ES細胞」を使うことで作ることが出来るのではないかと、、。

確かにそれは理屈の上ではそうです。しかし、この「ES細胞」をそうした臓器移植を含む再生医療に応用するにはとても大きな問題が2つあったのです。

(1)まずは倫理的な問題です。受精卵と簡単に言いますが、それはどこから得てくるのでしょうか。私は先日「救世主兄弟」に関する連続コラムにおいて、人工授精の仕組みを説明しました。簡単に言うと、排卵誘発剤によって複数の卵子を得、精子と授精させ、培養した後に元気なものを母親の子宮に戻すのです。

戻す受精卵の数は基本的には1個です。そうでないと双子や三つ子になってしまうからです。でも顕微鏡を覗きながら行う顕微授精は得られた卵子全部に行うようです。つまり、母親の子宮に戻されなかったものであっても、もしそれが選ばれていたらその受精卵(正確には胚)が将来の夫婦間の子どもとなっていたかもしれないのです。

赤ちゃんとして生まれることが出来る運命を人の手で決める訳です。生まれてこない運命も人の手で決める訳です。さらに、この余った受精卵(胚)は「ES細胞」研究のために使われることもあるわけです。

現時点では主要国では法律によってES細胞研究に関する倫理規定が厳しく決められていることで、むやみやたらと研究することは出来ません。でもこの技術ならクローンを作ることも原理的には可能ですし、それよりも命とは何ぞや?という倫理問題がどうしてもつきまとう訳ですね。

(2)もう一つの問題は免疫の問題です。こちらも先日の「救世主兄弟」に関する連続コラムで示しましたが、人の免疫はお父さんとお母さんから一つずつもらった合計二つの遺伝子の組み合わせで決まるのです。それが完全に一致していないと移植された臓器は免疫拒絶(拒絶反応とも言う)が起こり、大変なことになります。

もちろん多くの場合は免疫抑制剤の使用によってそうした問題を解決するのですが、その副作用なども考えれば免疫の問題が無い方が好ましいのです。

「ES細胞」は言って見れば、どっかの男の人の精子と、どっかの女の人の卵子が授精して得られた胚を使って作る訳です。ですから、それが臓器の移植を必要としている患者さんと免疫の型が一致することなどおよそ望めません。

様々な培養条件の操作によって望みの臓器が作れたとしても、この免疫の型の問題を超えることは出来ない訳です。

こうした大きい2つの問題が議論されていた際に、ガードン博士による、カエルの核移植実験から得られた「初期化因子」の存在(の可能性)と、「ES細胞」がもつ特殊な性質、そしてヒトゲノムの解読、インターネットの進歩、そして医師としての山中先生の情熱、こうしたことが元になって山中先生は「ES細胞」を使わないで済む移植可能な万能細胞(後にiPS細胞と命名)のアイデアが浮かんだそうです。

簡単にそのアイデアを紹介します。まず、人の遺伝子DNAは長い長い百科事典のようなものだと説明してきました。その中の文字の数はヒトの場合何と60億文字もあるのです。400字詰め原稿用紙にして、1500万枚にも達する長い長い百科事典なのです。

ところが、その百科事典は意味不明な部分が大部分で、きちんとした文法によって意味が分かるところは数えてみるとおよそ3万行しかないことが分かってきたのです。これがヒトゲノムプロジェクトの最大の成果なのです。

この3万行とは百科事典のあちらこちらに点在していて、それぞれの文に含まれている単語は人によって少しずつ違う訳です。そうした3万行の文が皮膚の巻、筋肉の巻、神経の巻などに分類されているのが、ヒトゲノムの全体像だと言って問題ないかと思います。

さて、3万行は実は遺伝子の数に相当します。分かりやすく文が3万あるのだと説明しましたが、実際は遺伝子の数を意味するのです。以前から申し上げておりますように、働いている遺伝子の違いが「分化」そのものと言える訳です。翻って見れば、「ES細胞」の巻もそこにはあると言うことです。

もちろん、「ES細胞」の巻と「皮膚細胞」の巻には同じ文章も多少は含まれています。しかし、受精卵も含めて様々な細胞を比較していくと「ES細胞」の巻にしか書かれていない特別な文章が見つかってきた訳です。こうした作業はヒトゲノムプロジェクトや、インターネットの普及と、世界中の研究者が調べた遺伝子の情報が国際的なデータベースに保管されるようになってきたからなのです。

山中先生は受精卵やES細胞の巻にしか書かれていない文章(遺伝子)を最終的に24個発見しました。全部で60億文字からなり、さらに3万の文章があちこちに点在している複雑な状態からパソコンやインターネットを駆使して、この24個を見つけ出してきた訳です。

まだその段階ではこの24個がどのように関係しているのか、本当に「ES細胞」の特徴をその24個の文章だけで説明出来るかどうかは分かりませんでした。

ここからがものすごい仕事量だったはずです。培養している細胞に、この24個の遺伝子を様々な組み合わせで投入し、細胞の中でそれらの遺伝子を働かせてみると、場合によっては細胞が「ES細胞」と同じ性質に変化することが分かったのです。つまり「初期化」することに世界で初めて成功したのです。

しかし、当時は韓国の大学でヒトのES細胞を作ることが出来たと発表した教授の研究が実はまるっきりねつ造だったことが明らかとなり、山中先生も大発見をしていたにも関わらず、慎重に研究を進めていらっしゃったそうです。もし、不確定なものがあったまま発表し、やっぱり間違いでしたとはとても言えない世界状況にあったわけです。

その後の成果については既に皆さんがご存知の通りです。最終的に4つの遺伝子が必要だということを突き止め、それを世界一の科学雑誌において発表されたのです。そこにはライバルがいたことや、様々な幸運があったことなど、色々な逸話があるようですが、その辺に関してはきっと私よりも皆さんの方がお詳しいでしょうね。

さて、駆け足で「iPS細胞」の誕生まで説明してきました。今回は「ES細胞」や「ヒトゲノムプロジェクト」、「免疫」など様々なキーワードが登場しましたが、ご理解いただけましたでしょうか。

「免疫」に関しては私が以前書きました「救世主兄弟について」の連続コラム(10月5ー7日)が参考になるかと思いますし、生物学の基礎的情報に関しては同じく「老化と再生医療と若返りについて」の連続コラム(9月17-29日)が理解に役立つかと思います。

ご興味がございましたらそちらもご覧下さい。もし見つけられなかった場合はご連絡ください。URLをお伝えします。

さて、今日のまとめです。

今日は主に「ES細胞」に関して、その特徴と問題点について説明し、大きな問題が2つあるとお話ししました。1つは倫理問題、もう1つは免疫の問題です。それをどちらも解決するものとして「iPS細胞」が誕生した訳です。

まだ「iPS細胞」がどのようなものであるかの説明が出来ていませんので、それらについては次回「iPS細胞について(その4)」で採り上げたいと思います。お楽しみに。

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Wednesday, January 16, 2013

What is Life? iPS細胞について(その2)



iPS細胞に関してここ数日テレビや新聞で報道されたことで、多くの方がiPS細胞を開発した山中伸弥先生のお姿をご覧になられたことでしょう。凛々しいお顔に優しい笑顔、そして格好いい眼鏡。私も少しあやかりたいと思っています。

さて、今回はiPS細胞に関しての2回目です。この連続コラムではこの技術がなぜノーベル賞を受賞するほど注目されているのか、或は今後の再生医療にどれだけ貢献する可能性を秘めているかなど、分かりやすく解説したいと思います。

前回はiPS細胞とは何かを説明するために「再生」「分化」「脱分化」「初期化」などの用語に関する解説を行いました。

今回はその続きです。

まず簡単に前回の流れを復習しましょう。体を構成する細胞は様々な部位において、様々な特徴を持っていて、これを「分化」している細胞と呼びます。そして、カエルを使った実験結果から、一度「分化」した細胞の核を卵に移植すると、それまで非常に長い遺伝子DNAの百科事典の中で、その細胞専用の巻を開いていた(分化していた)ものが、一旦全てのページを閉じて(初期化)新しくまたそれぞれのページを開き始めることが分かった訳です。

このことは傷の修復などに見られる「再生」現象に細胞の「脱分化」が関係している可能性を示し、またある特定の条件さえ見つけ出すことが出来れば「分化」した細胞を「初期化」することが可能だということが予想された訳です。

さて、ここでまた別な新しい言葉を持ち出してこなければなりません。それが「幹細胞(かんさいぼう)」と呼ばれるものです。幹細胞と肝臓の細胞(かんさいぼう)は読み方が同じなので混乱することが多いのですが、ご了承ください。

幹細胞と言うのはこれまで述べてきた「再生」現象を説明するための一つのアイデアから発見されたものです。もう少し詳しく説明しましょう。

前回イモリの肢を切断した際に起こる肢の「再生」は「脱分化」によって起こると説明しましたが、それだけでは実は説明がつかないことがあるようなのです。おそらくイモリのような両生類は再生能力がとても高いので、「脱分化」も起きているとは思うのですが、それ以外にも「幹細胞」による「再生」も起きていると考えられています。

「幹細胞」に関しての説明がまだでしたね。これはわりと最近に見つかったもので、体が維持されているメカニズムを実にうまく説明するものなのです。

「幹細胞」というのは体のあちこちに存在している「分化」途中の細胞のことです。どういうことかと言うと、例えば皮膚を考えてみてください。私たちは普通あまり皮膚の「再生」を意識すること無く生活しております。

でも、子どもの頃を思い出してください。今でこそ「紫外線」によるシミ、ソバカス、メラニン色素の沈着などと騒がれていますが、夏休みに海水浴に行ったりすると、真っ黒に日焼けして、その後で皮が剥けましたよね。実はあれは紫外線を大量に浴びたことによる軽い火傷のようなもので、皮膚の下の方に存在する部分で、急いで傷ついた皮膚を再生する活動が起きた結果なのです。

同様に、体のあちこちにはその組織に必要な細胞を作り出す部分があって、そこにいつも新しい細胞を送り出す役目をしている特殊な細胞があるのです。その細胞のことを「幹細胞」というのです。

皮膚と同様に、骨髄にも常に血液細胞を作り出している「造血幹細胞」がいますし、最近では小腸や、肝臓にもそうした「幹細胞」が存在すると言われています。

少し説明が長くなりましたが、そのように「幹細胞」は完全に「分化」していない状態で、細胞分裂をすることで新しい細胞を送り出す役目を持っているのです。

さて、みなさんはきっと、これまでに何度か「ES細胞」という言葉を聞いたことがあるでしょう。iPS細胞関連のニュースでも「ES細胞」という言葉は頻繁に使われていると思います。

この「ES細胞」も実は「幹細胞」の一種なのです。しかし、この「ES細胞」は皮膚や血液を作る幹細胞よりももっとずっとずっと前の段階、つまり受精卵からまだそれぞれの細胞が「分化」していない頃の状態を維持している特別な「幹細胞」なのです。

「分化」の程度を文字で簡単に示すと以下のようになります。

受精卵→ES細胞→→→→→→→皮膚幹細胞→→皮膚細胞

ここではES細胞の作り方やその倫理的問題などはあえて採り上げません。後でまとめて示すからです。

さて、ES細胞とiPS細胞の一番の共通点は、特定の条件を揃えてあげることで、基本的にどんな種類の細胞へも「分化」させることが出来るという点です。ですから、火傷によって皮膚移植が必要になったとき、白内障などで網膜の移植が必要となった時、肝硬変で肝臓移植が必要な時など、どんな細胞にも「分化」させられるES細胞やiPS細胞はそうした問題を解決出来るのではないかと期待されているのです。

少し長くなってきましたので、本日はここまでにします。iPS細胞開発のきっかけはこのES細胞だったのです。次回説明しますが、山中先生はこのES細胞が持つ問題点をなんとかしたいと考えてiPS細胞開発に挑戦なさったのだそうです。

今回の話をまとめます。

「再生」において「脱分化」とともに「幹細胞」の活躍も発見された。
「幹細胞」が体のあちこちにあって、体を維持している。
「ES細胞」はもっと初期段階にある「幹細胞」の一種
「ES細胞」も「iPS細胞」もあらゆる細胞に「分化」させることが可能

次回は「iPS細胞誕生」あたりを解説します。

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Tuesday, January 15, 2013

What is Life? iPS細胞について(その1)


みなさんも既にご存知のように、京都大学の山中伸弥教授に今年のノーベル医学生理学賞が贈られることが決まりました。この分野での日本人受賞者は免疫の仕組みを明らかにした利根川進先生以来です。

バイオの研究一筋に生きてきた私にとって、山中先生の受賞は大変嬉しく、また誇らしく思います。山中先生ほどの偉業を成し遂げた人物に対してノーベル賞が授与されず、まだ若いからといってもっと年寄りに決まるのかと心配していましたが、そうではなかったことでとてもほっとしています。

やはりそれだけの仕事をした人にはそれだけのものが与えられて欲しいものです。

さて、私はこれまでバイオの研究分野に関する内容で、何度か連続コラムを書いてきました。本日からは山中先生の偉業であるiPS細胞とは何か、そしてそれがどのように開発されたのか、そして将来的に何に応用されることが期待されているのか、そうしたことについて書いてみたいと思います。

まず1回目の今日は、iPS細胞とは何かということについて説明したいと考えています。

それでは始めましょう。まずはじめにいくつかのキーワードについて説明します。

以前もお伝えしたことがございますが、私たちはけがをすると、数日から数週間すると綺麗に治ってしまいます。これは一体何故でしょうか。それはけがをしたところで、血が出たり、赤くはれたり、熱をもったりする炎症が起きて、そこでけがを直すためのたくさんの仲間がやってきて、最後には細胞が分裂してけがをした部分を修復してくれる訳です。

これを「再生」と言います。キーワードの(1)です。

また、私たちの体は皮膚や神経や筋肉など様々な種類で構成された、60兆個もの細胞から成り立っています。はじめはたった一個の受精卵だったのですが、繰り返し細胞分裂を行うことでこのように、様々な種類の細胞に分かれてきている訳です。

これを「分化」と言います。キーワードの(2)です。

この後はこの「再生」と「分化」という二つのキーワードをもとにしてiPS細胞までの道のりを説明致します。

すみません、その前にもう一つだけ大事なことがございます。それは遺伝子に関することです。私たちの細胞にはそれぞれ遺伝子DNAがしまわれている細胞核(あるいは単に核とも言う)があります。その遺伝子はものすごく長ーい百科事典のようなものです。そして、それぞれの細胞の形や性質や働きなどが異なっているのは、その中で利用されている遺伝子が違うからなのです。

全ての細胞が同じ遺伝子DNAを持っていても、皮膚なら皮膚専用、神経なら神経専用、筋肉なら筋肉専用の部分があるということです。遺伝子全体の百科事典が100巻からなっていたとしたら、それぞれの細胞は別々の巻を開いてそこの命令通りに働いているということになる訳です。

きっと、皮膚の巻、神経の巻、筋肉の巻などと名前があるのかもしれませんね。

このように、それぞれの細胞はそれぞれ特有の遺伝子を働かせているわけです。その違いが「分化」そのものと言っても構わないと思います。

さて、古くからこの再生と分化という現象は広く知られていて、それが何故起きるのかについて多くの発生生物学社が研究を重ねてきました。

この場合何が問題かというと、けがが治る時に「分化」した細胞が「再生」に関わっているのかどうかということなのです。

皆さんお分かりかと思いますが、皮膚はずっと皮膚ですし、筋肉はずっと筋肉のままです、脳はずっと脳なのです。それなのになぜ、けがをしたときに傷が治るのだろうか?と議論や研究が続けられてきたのです。

もし「分化」した細胞が「再生」に関与していたとしたら、一度「分化」した細胞が何らかの仕組みによって変化しなければなりません。

イモリの腕を研究材料にした実験ではそうしたけがをした部分の細胞が一旦変化してまた新たに分化するのだと考えられていました。これを「脱分化」と呼びます。

しかし、その後の研究で、カエルの卵の核を取り除き、小腸の細胞から核をとってきてこれを卵に入れると、細胞分裂を開始して、オタマジャクシ、カエルになるということが報告されると、この「脱分化」の仕組みが世界的に注目されるようになりました。

小腸の細胞は既に小腸に「分化」済なのに、卵に包まれると、なぜかまた1個の受精卵に戻ったかのように細胞分裂を開始する訳です。

先に説明した百科事典を例に挙げれば、小腸の巻を開いていた細胞が卵の中では一旦全てのページを閉じて、また最初からそれぞれのページを開き始めるというわけなのです。

この現象は「脱分化」の1例だとも考えられますが、「初期化」すなわち、最初に戻ることだと理解されたのです。つまり、卵の中には「分化した細胞」を一旦「初期化」する何か原因があると考えられたのです。

iPS細胞に関して説明するにはどうしてもこうした用語の解説や、歴史的な流れを少し言わなければなりません。でも、すごく簡単に言うと、iPS細胞とはこの「初期化」の原因を突き止めて、卵に入れなくとも人工的に細胞を「初期化」することが出来た技術だと言うことが出来ます。

今日はここまでに致します。最後に今日のまとめをします。

(1)けがが治ることを「再生」と言う。
(2)それぞれの細胞に変化することを「分化」と言う。
(3)分化した細胞がもとに戻ることを「脱分化」と言う。
(4)「初期化」は遺伝子の百科事典を一度全部閉じて最初から開き直すこと

さて、次回は初期化因子探し、幹細胞、ES細胞などについて説明します。

*ものすごくワクワクしています。分かります?

「山中先生おめでとうございます。本当に嬉しく思っています。」


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