Saturday, January 19, 2013

What is Life? iPS細胞について(その4)

最近テレビは殆ど見ていないので、どの程度山中先生について報道されているのか、正直分かりません。毎週見ているのはNHKでやっている「イサン」とNHK教育の「みんなの手話」くらいですね。録画ですが、。

 さて、始めましょう。今回はiPS細胞についての4回目です。前回までに「再生」「分化」「脱分化」「初期化」「幹細胞」「ES細胞」「ヒトゲノム(遺伝子)」そして、「iPS細胞」というキーワードを用いて説明してきました。

 前回の最後にやっと「iPS細胞」が登場しましたね。「iPS細胞」は「ES細胞」と同様に、様々な細胞に分化する能力を持っているもので、「ES細胞」が抱える(1)倫理的問題と(2)免疫の問題の両方をクリアーするものだと簡単に説明致しました。 

今回はもう一度「iPS細胞」について説明し、この技術の将来における可能性などについてご紹介したいと考えています。 

前回のおさらいです。山中先生は「ES細胞」が抱える(1)倫理的問題(2)免疫の問題の両方を、「初期化因子」を見つけ出して解決しようとなさったのです。 

そして、60億文字からなる遺伝子の百科事典の中のあちらこちらに存在する3万行の文章の中から、「ES細胞」にだけ見られるものを24個見つけてくることが出来たのです。

そしてその後の研究で細胞を「初期化」するには24個のうちのたった4つの遺伝子があれば大丈夫だということを突き止めて、世界で初めて生物学分野の最も有名な科学雑誌の1つにご発表されたのです。

 もう少し詳しく説明しましょう。山中先生は皮膚細胞を使って、この4つの遺伝子を皮膚細胞に入れて、その細胞の中で4つの遺伝子を働かせてみました。これまでは皮膚細胞らしい形をしていたものが、形が変わり、そして、特別な条件で培養すると、どんな細胞へも「分化」出来る細胞、つまり「iPS細胞」となったのです。 

考えてみてください。もしあなたの皮膚細胞(それを取ってくるのはもしかしたら少し痛いかもしれませんが、我慢してください)をとってきて、四つの遺伝子を組み込み、何にでも「分化」させることが出来るiPS細胞を作ることが出来るとしたら、、、。

 これならば、将来赤ちゃんとして誕生してくる可能性のある「胚」を使う訳ではないので(1)倫理的な問題は殆どありません。 

さらに、自分自身の細胞なので「免疫の型」は同じですから、拒絶反応は起こりませんし、困ったときに目的の臓器も理論上は作ることが出来るはずです。

 ですから、もしあなたがお酒の飲み過ぎで肝臓が悪くなってしまったら、以前作っておいた自分の「iPS細胞」を使って肝臓の細胞を作ればいいですし、やけどをしてしまったら、皮膚の細胞を作ればいいのです。もはや大金を使ってドナーを探す必要はなくなるのかもしれません。 

病気で苦しんでいる人、事故などで失ってしまった体の一部を取り戻したい方、あるいは若さを取り戻したいと考えている人、そうした人に夢を与える可能性をもった技術なのです。 

しかし、諸手を上げて大歓迎という段階には残念ながらまだ至っておりません。安全面や倫理面の問題も残されています。当初用いる遺伝子4つのうち1つが癌細胞で働くものであったため、作成したiPS細胞が癌化してしまうという問題もありました。現在は3つで同じことが出来ることが分かりましたし、様々な改良によって、癌化を防ぐことが出来るようになってきたようです。

 一方で、iPS細胞に関する新たな「倫理的問題」も発生してきました。

 例えば、この細胞を特殊な環境に置いてやると、あらゆる細胞へと「分化させる」ことが出来ます。極端な例では、iPS細胞から精子や卵子も作り出せるはずなのです。実際に卵子はまだ難しい面があるようですが、精子は作ることが出来たそうです。 

雌のマウスを用いた実験では、それらを使って受精させると、自分のコピーが出来ることがあきらかになったようです。ま、もちろん若干難しい点もありますが、原理的には可能だということです。

 iPS細胞はそうした移植医療、再生医療の分野だけではなく、原因や治療法が無い、所謂「難病」の研究にも活用することが可能です。かつて「筋萎縮性側索硬化症:ALS」という難病の研究に携わっていた自分としては、iPS細胞を使うべきはまずはこちらではないかと考えています。

 「筋萎縮性側索硬化症」は手足の先から運動神経が徐々に死んでいく病気で、手足が動かなくなり、さらにその病気が進行すると寝たきりとなってしまうものです。感覚神経には影響がないので、分かりやすく言うと、蚊に刺されてかゆくてもかけない、そんなことが起こる訳です。

 もちろんこの例は実際にこの病気で苦しまれていらっしゃる方からは怒られてしまうとは思うのですが、一般の方々にこの病気について理解していただきたいと考えてのことですので、どうかお許しください。

 例えばこの「筋萎縮性側索硬化症」のように、遺伝子の異常によって起こる病気の原因を調べるために、患者さんの組織を採取するというのはかなり困難です。ですから、患者さんの細胞をほんの少し頂いて、iPS細胞を作って、そこから研究に必要な細胞を「分化」させて、実験室においてその原因を突き止めるための研究に生かせばいいのです。

 そうしたこれまででは出来なかったあらゆる研究への可能性がiPS細胞にはあります。この技術が確立するには様々な幸運と環境の整備がたまたま重なったことも影響したことだとは思います。でも、それを本当に世の中に役立つものを作りたいと真剣に考え、現在も研究に邁進されていらっしゃる山中先生を大変尊敬申し上げております。 

こうして離れた場所から、山中先生への尊敬の念を表するために書いてきた「iPS細胞について」の連続コラムは今回が最終回です。用語の解説や歴史的背景、あるいは例え話など、そうしたものが必要であるために、もしかしたら「長過ぎだよ」とお叱りを受けるかもしれませんが、どうかご容赦ください。

 山中先生、本当におめでとうございます。100年に1度、いや500年に1度の大発見を成し遂げた先生の偉業は将来ずっと私たちの励みにもなりますし、現在困っている方々を救うための礎となることは間違いありません。 

本当におめでとうございます。そしてありがとうございます。バイオの研究に携わる人間として、その末席からお祝い申し上げます。みなさんお読みくださいましてありがとうございました。何かご質問がございましたら、お気軽にご相談ください。

本日の講義は以上です。最後に、出欠をとります。以下のバナーをクリックしたことで「出席」と認めます。

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