Tuesday, January 15, 2013

What is Life? iPS細胞について(その1)


みなさんも既にご存知のように、京都大学の山中伸弥教授に今年のノーベル医学生理学賞が贈られることが決まりました。この分野での日本人受賞者は免疫の仕組みを明らかにした利根川進先生以来です。

バイオの研究一筋に生きてきた私にとって、山中先生の受賞は大変嬉しく、また誇らしく思います。山中先生ほどの偉業を成し遂げた人物に対してノーベル賞が授与されず、まだ若いからといってもっと年寄りに決まるのかと心配していましたが、そうではなかったことでとてもほっとしています。

やはりそれだけの仕事をした人にはそれだけのものが与えられて欲しいものです。

さて、私はこれまでバイオの研究分野に関する内容で、何度か連続コラムを書いてきました。本日からは山中先生の偉業であるiPS細胞とは何か、そしてそれがどのように開発されたのか、そして将来的に何に応用されることが期待されているのか、そうしたことについて書いてみたいと思います。

まず1回目の今日は、iPS細胞とは何かということについて説明したいと考えています。

それでは始めましょう。まずはじめにいくつかのキーワードについて説明します。

以前もお伝えしたことがございますが、私たちはけがをすると、数日から数週間すると綺麗に治ってしまいます。これは一体何故でしょうか。それはけがをしたところで、血が出たり、赤くはれたり、熱をもったりする炎症が起きて、そこでけがを直すためのたくさんの仲間がやってきて、最後には細胞が分裂してけがをした部分を修復してくれる訳です。

これを「再生」と言います。キーワードの(1)です。

また、私たちの体は皮膚や神経や筋肉など様々な種類で構成された、60兆個もの細胞から成り立っています。はじめはたった一個の受精卵だったのですが、繰り返し細胞分裂を行うことでこのように、様々な種類の細胞に分かれてきている訳です。

これを「分化」と言います。キーワードの(2)です。

この後はこの「再生」と「分化」という二つのキーワードをもとにしてiPS細胞までの道のりを説明致します。

すみません、その前にもう一つだけ大事なことがございます。それは遺伝子に関することです。私たちの細胞にはそれぞれ遺伝子DNAがしまわれている細胞核(あるいは単に核とも言う)があります。その遺伝子はものすごく長ーい百科事典のようなものです。そして、それぞれの細胞の形や性質や働きなどが異なっているのは、その中で利用されている遺伝子が違うからなのです。

全ての細胞が同じ遺伝子DNAを持っていても、皮膚なら皮膚専用、神経なら神経専用、筋肉なら筋肉専用の部分があるということです。遺伝子全体の百科事典が100巻からなっていたとしたら、それぞれの細胞は別々の巻を開いてそこの命令通りに働いているということになる訳です。

きっと、皮膚の巻、神経の巻、筋肉の巻などと名前があるのかもしれませんね。

このように、それぞれの細胞はそれぞれ特有の遺伝子を働かせているわけです。その違いが「分化」そのものと言っても構わないと思います。

さて、古くからこの再生と分化という現象は広く知られていて、それが何故起きるのかについて多くの発生生物学社が研究を重ねてきました。

この場合何が問題かというと、けがが治る時に「分化」した細胞が「再生」に関わっているのかどうかということなのです。

皆さんお分かりかと思いますが、皮膚はずっと皮膚ですし、筋肉はずっと筋肉のままです、脳はずっと脳なのです。それなのになぜ、けがをしたときに傷が治るのだろうか?と議論や研究が続けられてきたのです。

もし「分化」した細胞が「再生」に関与していたとしたら、一度「分化」した細胞が何らかの仕組みによって変化しなければなりません。

イモリの腕を研究材料にした実験ではそうしたけがをした部分の細胞が一旦変化してまた新たに分化するのだと考えられていました。これを「脱分化」と呼びます。

しかし、その後の研究で、カエルの卵の核を取り除き、小腸の細胞から核をとってきてこれを卵に入れると、細胞分裂を開始して、オタマジャクシ、カエルになるということが報告されると、この「脱分化」の仕組みが世界的に注目されるようになりました。

小腸の細胞は既に小腸に「分化」済なのに、卵に包まれると、なぜかまた1個の受精卵に戻ったかのように細胞分裂を開始する訳です。

先に説明した百科事典を例に挙げれば、小腸の巻を開いていた細胞が卵の中では一旦全てのページを閉じて、また最初からそれぞれのページを開き始めるというわけなのです。

この現象は「脱分化」の1例だとも考えられますが、「初期化」すなわち、最初に戻ることだと理解されたのです。つまり、卵の中には「分化した細胞」を一旦「初期化」する何か原因があると考えられたのです。

iPS細胞に関して説明するにはどうしてもこうした用語の解説や、歴史的な流れを少し言わなければなりません。でも、すごく簡単に言うと、iPS細胞とはこの「初期化」の原因を突き止めて、卵に入れなくとも人工的に細胞を「初期化」することが出来た技術だと言うことが出来ます。

今日はここまでに致します。最後に今日のまとめをします。

(1)けがが治ることを「再生」と言う。
(2)それぞれの細胞に変化することを「分化」と言う。
(3)分化した細胞がもとに戻ることを「脱分化」と言う。
(4)「初期化」は遺伝子の百科事典を一度全部閉じて最初から開き直すこと

さて、次回は初期化因子探し、幹細胞、ES細胞などについて説明します。

*ものすごくワクワクしています。分かります?

「山中先生おめでとうございます。本当に嬉しく思っています。」


*本日の講義は以上です。最後に、出欠をとります。以下のバナーをクリックしたことで「出席」と認めます。



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